2012年12月30日日曜日

農家日誌⑦ 野菜の売られ方3

今まで2回は出荷の形態について書いていたが、出荷の前の話はしていなかった。

働き始めて数日はレタスやキャベツの収穫をしたり、草むしりしたり苗植えしたりしていた。

初めてレタスの収穫をした時、レタスはまずひっくり返してウォッシャーというホースみたいなので水を吹きかけて、茎の根元からでる白い液をのぞかないといけない事を知った。
ウォッシャーをしないと我々が想像する綺麗なレタスにならないから、である。レタスはすぐに傷んでしまうのでいたんだものや小さいものはそのまま畑に捨てられて土おこしで踏みつぶされる。


キャベツの収穫をした時は、見栄えがいいように外葉を一枚だけ残してうまく切らないといけないと知った。見栄えと、おそらく痛みにくくするため。小さいのはこちらも形には残らない。

この時は特に大きな疑問は持たなかった。小さいと値崩れしてしまうのは自明だったし、多少痛むもの仕方がないから。

数日たって、初めて大根を引っこ抜いた。
大根は、抜いてみるまでどうなっているかわからない。
200本抜いたら160本くらいしか物にならない。

ヒビが縦に入っていたら、すぐその場で捨てる。
二股に分かれていたら、やっぱりその場で捨てる。
あまりに曲がっていたら、その場で捨てる。
小さくても捨てる。

引っこ抜いて大丈夫なものを、根こそぎ包丁で葉っぱを落としていく。

そうして持ち帰ったものを、専用の大根洗い機(車の洗浄マシンみたいな感じ)に一本一本通して洗うのだ。大根がいつも白いのはそのおかげ。考えてみれば当たり前なのだけどスーパーの大根はいつもあの白いのだったから何かを忘れていたらしい。ここで、農家が自腹を切って機械を買って洗っているから(結構重労働)大根は白いのだ。ちなみに洗わない大根は別の注文形態としてあるが割合としては少なく、基本的にJAに出荷するのは大体洗っていた。
後から気付いたが、ウォッシャーもレタスのためだけに買っている。


そして、ここのJAでは900g以上の大根が正規の大根。700,800だと値段は半分になってしまい、700g以下は商品として認められず廃棄される。

捨てられた野菜は、有機農業なので畑に戻して養分にする。

それでも、曲がった大根も、ちょっと二股に分かれた大根も、全て捨てられてしまうのだ。

苦労して3カ月育てた野菜を捨てるのは忍びないだろう。収入にもならない。

お父さんは言っていた。昔は有機農業って言えば少しくらい曲がっていても許されていたけど、いつの間にかみんな大根ったらまっすぐで大きい奴しか認めてくれなくなったんだよ、と。
きゅうりやナスだって曲がっちまうんだけど、それも商品にはならない。味は変わらないのにね、と。


大根は白くて、まっすぐじゃないと、というのが当たり前になった。少なくとも僕はそれに見事なまでに感化されていた(ジャガイモとか人参はもっと泥まみれなイメージあるけど)。

野菜かくあるべし。
そんな都市側の欲求の帳尻合わせを見えないところで必死になっているのが現場の農家なのである。

野菜の売られ方は農家にはまだまだとても厳しい世界なのではないだろうか。きっと他の一次産業の現場でも似たような事が起こっているのではないだろうか。

2012年12月28日金曜日

農家日誌⑥ 野菜の売られ方2

※これは僕が北軽井沢の有機農園でバイトをした経験と本で得た知識を元に書いていますのでサンプルはn=1なので実態が普遍的なわけではないですよ。あしからず。

「けれどもね、契約農家も完全な契約ではないんですよ。どうしてか、わかります?」

それは、農家というのが根源的にリスクの塊だから、であった。

当然ながら野菜の成長の如何は大きく天候に左右される。向上のように必ず一定数ができるわけではない。前年はとうもろこし畑がクマに荒らされてしまい一本も収穫できなかったそうだ。

そうなった場合、完全なる契約にしてしまうと規定数の出荷が出来ない場合に違約金を取られることになってしまう。大きな収穫がない場合も勿論問題だが小さな変動はいくらでもあるし、必ずしも狙ったように野菜は大きくなってくれるとは限らない。

そうなると、どうしても緩い契約をしておかないとリスクを背負い切れないのだそうだ。

結果、どうなるかというと、契約相手も必ずしも契約を完全には守らない。豊作でJAの市場価格が安くなると契約は破棄されて農家のそれは買ってもらえないのだそうだ。それも、有機農園だから多少のプレミアがついていてこの現状である。普通の農薬を使った農家であればそもそも契約農業それ自体も厳しいのかも、しれない(ここは良く知らない)。

ここが、現代農業の非常に大きな弱点だと思うが、どうあっても基本的に最終生産者が大きなリスクを全て抱えないといけない。それでもJAは税を取るし、運搬料金も変わらない。小売も仕入れ値に%で上乗せしていくのだから、基本的に利益構造はできている。しかし農家は豊作になれば値が崩れ、凶作になれば収益も減る。そういった帳尻合わせは全て農家が行っている。若者を農家に!とは言っても根源的にリスクを背負い弱者である農家にそこまでなりたい人が続出するであろうか。

ちなみに、JAは市場価格に左右される一方、いくらでも出荷出来ると言ったが、JAのメリットはもう1つあって、それは入金が非常に早いこと。納めて10日くらい以内には入金されるらしい。基本的に農家は収穫ができるまでは収入がない。最初の数カ月はずっと借用金、ツケでなんとかしないといけない。当然早く金を返さないと利息が付いてくる。こうした中、契約農家よりも圧倒的に早く入金してくれるJAはある意味ありがたいらしい。とはいえ、JAも地方によって全然強さが違っていて、強いJAのところでJA以外にも出荷しているのがわかると露骨に嫌がらせされる、とかはあるそうだ。


野菜の売られ方、もう一回だけ続けます。最後は収穫で気づく売られ方。




2012年12月2日日曜日

農家日誌⑤ 野菜の売られ方1

※これは僕が北軽井沢の有機農園でバイトをした経験と本で得た知識を元に書いていますのでサンプルはn=1なので実態が普遍的なわけではないですよ。あしからず。


最近は、契約農業が主流かなぁ。

と雇い主は言っていた。有機農業だから、というのもあるが、確かにJAに出荷する分に加えて某居酒屋チェーンに出荷したり~さんに出荷と色々あった。某チェーンカフェからも契約の話が来ているそうな。

野菜と言えばJAと僕は思っていた。実際、JAに納める野菜の量は沢山あったから。一日でレタス80ケース(1つ14個入りとか)とか普通に出荷したりしていた。


ある日、そのJAに野菜を出荷すると、奇妙な張り紙が。

販売額が書いてあるのだが、手取りが 0円

となっているではないか。野菜を売ってるのに0円??
良く見ると流通代と箱大で2/3を占めている。そこに市場手数料、JA手数料、冷却代、etcがかさむと農家の手取りは0 らしい。

ようするに、農家は箱代を還元(段ボールは事前購入)しかできないのか?汗水たらして10kgのレタスを出荷して。

すごい腑に落ちなくて、数日後そのことを聞いてみると、実際その通りだった。

JAというのは必ずしも悪魔ではない。まぁ色々ろくでもない評判は聞くが。

JAの野菜の買い取り価格は全て市場価格に左右されるらしい。つまり豊作だと値崩れする。今年はキャベツがそうだった。嬬恋などで恐ろしくキャベツが取れた今年のキャベツの値の崩れ方はすごいらしい。だから、市場価格が高い時は儲かる。だけど、0円のときだってある。それにJAはいくらでも野菜を引き取ってくれる。

契約農業が主流、というのはそういうことだ。
ある程度一定の安定した(=農家に利益が出る)価格で売るためには契約農業が良いらしい。大体毎日nケース出荷と決まっている。安定した収入口を手に入れるには契約農業が大事のようだった。

なるほどな、と思った後雇い主はこう続けた。


「けれどもね、契約農家も完全な契約ではないんですよ。どうしてか、わかります?」