2013年1月8日火曜日

特撮博物館を振り返る

随分前のものだが、現代美術館であった、特撮博物館は秀逸な展示企画だったことを、ふと思い出した。
特撮博物館はエヴァの庵野さん監修の元、昔のヒーローもので使われていた特撮を振り返ろうという企画展で、会期終了前の休日に行ったところ、1時間待ちの大盛況な展覧会であった。

行く前はどうなのだろう?なんか高いし…とか懸念はあったのだが見事にいい意味で裏切られた。


まず、圧倒的な展示量と明解なコンセプトがよい。国産故、あそこまで展示作品が多かったのだろうか。或いは特撮に関わった者たちがとても協力的だったからだろうか。


日本で行われる企画は両方足りないか、片方がしっかりしているか、の企画が多い気がする(自分の趣味的にそうなだけかも)。なかなか、量も質もすごい、というのにはならない。


いわゆる海外ものの企画展だとどうしても作品数に限界がある。たまたま工事とかしていて作品が外に出回っていたり、とかがないとなかなかうまくいかない。新国立美術館のこけら落としの時の目玉企画モネ展はかなり凄かったが、あれもオルセーが長きにわたる改装工事をやっていたからこそ出来た技ではないのかと思う。

それに、美術作品の貸出において、日本のように西洋絵画の作品数が少ないと、なかなか貸し出してもらえないことも多く、せっかく交渉しても、結果挫折してやむなく別の作品に…というのもあるようだ。そうなると主力作品じゃないものが増え、広告とのズレが出るか、コンセプトがボヤけるかする。結果、せっかく金払って行ったのに肝心の~の絵とか殆どないじゃん。だれだよこいつー、みたいな感じになってしまい一般に受けにくくなる。その点、元々いい作品を持っている美術館は自分の作品貸すからさ、ともちつもたれつで作品を借りれるので、オルセーやらルーブルやら、企画をするとここ、こんなにこの作者だけで集まるのかよ!となる。オルセーのマネ展は母国の力を活かして圧倒的な質と量で日本なら企画一本物の目玉作品すら一兵卒のような扱いだった。草上の昼食とか、しゃべりながら見てたら見逃したほど。

一方、目玉作品、というよりは明快なコンセプトで当たりが出る時もある。

昔見た浮世絵と陶器展@東博は作品は地味だがコンセプトが一貫していて楽しかったし、先日の三菱一号館美術館も作品数は少ないし、画家も自分は知らない人だったが、代わりに作者をきちんと揃えていて、作者の変遷がわかってなかなか楽しめた。

特撮博物館は、目玉(巨神兵東京に現る)もすごかったが、それ以外の地味な作品達が効いていた。展示の仕方自体は意図的に雑であったが、特撮やってた人の見せたい素直な思いと、庵野さんの解説文に見られる熱意が逆に素直に入ってくる。作品に対して真摯な(童心に戻った)想いは会場に溢れかえっていた。あんなにみんなが作品に興奮してる展覧会を他にみたことがない。子供がゲームコーナーで目を輝かせているような感覚。さらに凄いことに、当時特撮を見ていたおじさん世代(物量がすごいのでかなりの世代に何かしらヒットする)は昔を思い出し食い入るように作品を見ていたのはもちろん、。結果、その世代と一緒にきた彼女や子供、奥さんへの解説がいたるところで聞こえた。普通の展覧会ならうるさいとこだが、展示の仕方的に静かが求められる空間でもないのももしかしたら敢えて雑に展示をしたキュレーターの作戦なのかもしれない。



その物量が物をいう展示が終わると、実際に巨神兵現るの動く特撮を見れる。
正直観た感想は、これはCG使ってるんじゃないの?であった。とても昔のウルトラマンなどでみたような特撮ではないレベルだったから。しかし、短い作品だったが大迫力だった。

興奮した上で舞台裏を見せる。今回の映像の制作過程が見れ、CGは使わず如何に合成画像と模型だけで成り立たせているかがわかり、さらに興奮が高まった中、楽屋裏で特撮の歴史を改めて振り返り、最後に撮影で使用したジオラマ内に自らが入れるという心憎い演出だった。


圧倒的量とクオリティが特撮の歴史を振り返るというシンプルなコンセプトで迫ってくる。


三時間近くいたが最後は時間切れでみきれなかった。たかだか現代美術館の一企画が、であるのに。特撮関係者の想いと客の想いが、見事反応していたと思う。フランスで美術館にしょっ中いて、もう日本では暫く美術館はいいや、という懸念を払拭してくれた。



かつて師は自分に、美術は一流を見続けろ、場所とタイミングが一致した時、何か本質が見えるのは一流の優れた作品。二流をいくら見てもダメだ、と言ってくれた。特撮博物館は少し趣向は違うが間違いなく一流のそれだったと思う。

自分がモネのルーアン大聖堂を見て、そのあとに本当のルーアン大聖堂を見て絵ってすげーなぁと思ったように、なんか企画展ってすげーなぁとあの企画を通じて思った人は一定数いるんじゃないだろうか。


美術館?よくわかんないや、という人の気持ちを変える力があったと思う。画家の作品数点しかないのに画家の名前を冠した展覧会はなかなか心に響きにくいだろう。でも、国産ベースで作品集めやすいものでならオルセーでのマネ展のようなことも可能なのでは。ああいう展示会がもっと沢山企画されて、見終わった後、振り返りたくなる企画がもっとでてきて欲しい。

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