2011年11月12日土曜日

オルセーの本気

長きにわたったオルセー美術館の工事が終了した。

リニューアルしたオルセーに足を運んだ。祝日だったこともあって混んではいたが、行く価値はある。

オルセー美術館の本気の凄さをまざまざと見せつけられた。

今回の改装でこれまで使えなかった2階右翼部分と5階部分(左翼のみ)が全面解放されて、それまで窮屈な廊下に抑え込まれていた印象派達は5階部分を全て使えるようになった。

新しい印象派のコーナーは壁を濃い紫/黒に近い色に塗り直し、天井部を開けて自然光を取り入れるようになった。これにより、光がよく入るようになり、かつカラフルな印象派の絵が壁との対比で非常に映えるようになった気がする。(2004年に訪れた時はまだ白壁で、印象派の面積も少なかった)

肝心の作品については、疑いようのないクオリティ。

小さな小部屋が連続して6,7個続いているのだが、各部屋にこんな有名な作品が惜しげもなく並べられてるよ…と一つ目の部屋だけで日本なら特別展が開けるような世界が広がっていた。

ドガのバレエ作品を連続で並べてみたり、海辺をモチーフにした作品をぽーんと並べたり。
そもそもマネの名作群をほいほい飾ってみたりとまぁ力を持つものだからできるやりたい放題っぷり。

そうかと思うと壁を一つ使って1,2作品だけを使うという大胆な飾り方をやってのける。
ルノワールのワルツは壁に2枚だけかけられた大胆な構図。しかも次の部屋に行くための仕切りとしておいてあるのでかなり視点が集まる構図になっている。(オルセーは写真禁止なのでぜひ足を運んでください)

キュレーターもここまでできたら楽しいのだろう。カードなんて幾らでもあるんだものね…。逆に日本のキュレーターの苦労は計り知れないのだろうけど。授業でのぽろっと喋る愚痴を聞いていると、三浦先生も作品集めるの本当に大変そうだったみたいだし。

そもそも会場構成(一筆書きで見ようとすると毎回ぐるぐる小部屋回らないといけない)と作品量的に、全ての作品を細かく見てくださいというものではなくて、あなたの気に入った絵を適当に見ながらどんどん進んじゃってください。ちょっと見逃しても良い作品は沢山あるからいいですよ、という作り。好きな時に来て何回も見てくださいという意図が感じられる。

5階の展示だけで正直お腹いっぱいになるクオリティ。あぁ、本気を出したらこんなのできるのね、と以前マネ展で見せつけられた圧倒的力をここでも見せつけられる。

以前は沢山あったマネのツミワラや太鼓橋がないのはどっかに貸し出されてるからかもしれないけど、とりあえず工事前には無かった作品、7年前や4年前に来た時には見たことなかった作品も結構あった。そういえば、シスレーやピサロの作品も減ったような気がしないでもない

ちなみにここまで歩いてまだゴッホやセザンヌ、後期印象派は出てきやしない。

ゴッホはひとつ2階の左翼部分にゴッホのコーナーがおいてあるのだが、ここもまたおしげのない作品の飾り方なうえ、オーヴェールの教会と壁、光の当て方がなんとも見事。オーヴェールの教会の教会とは思えないあの重々しさがいっそう強調される構図になっている。
きっと担当したキュレーターもドヤ顔してるに違いない。
少し部屋が狭いのが残念なところ。人も集まるのでもっと奥行きがあればすごいよかった気がするのだが…

今回のオルセーの改装では各部屋ごとに光量を随分調整しているようで、ゴッホの部屋は天井光を取り入れて明るいのに対し、スーラなどの部屋では採光はせず、少し暗めの中スポットライトを当てて映えさせるという展示の仕方だった。

さらに、新しくジャポニズムのコーナーができていて、そこでは以前国立博物館で特別展をやっていた浮世絵と陶磁器の作品がずらり。一時ヨーロッパにて浮世絵を陶器の模様にすることがはやったらしく、北斎の鳥獣戯画などがかなりモチーフになって皿として展示されているというもの。これ以外にジャポニズムをオルセーで体験できるのはマネの「ゾラの自画像」の背景くらいなので、ちょっと面白い。

既存部分は相変わらずアカデミズムやオリエンタリズムなどの作品が飾られていて、上に比べると大分人も少なくのんびりみれる空間になっていた。5階から回って行くとこのころにはお腹いっぱいになっているので軽くさーっとみて終わってしまうのでまた次回に…

とまぁ、工事期のオルセーは随分窮屈で人も絵も可哀想な感じになっていたけど、全面解放して本気を出したオルセーはかつて僕が行って大好きになった7年前のオルセーよりももっと素敵で意欲的な空間になっていた。

マネやモネは1870年以前と以降で展示階が違っていたりしてちょっと気付きにくいのだ(つかモネの部屋は見逃した…)とか、2階の左翼部分はなんかいまいちぱっとしないだの不満はあるけど、まぁそこは目をつむるとして、個人的には駅としてのオルセーとのあり方、アールヌーヴォーとの見せ方(今はしょぼいモデルルーム見せてるだけみたいになってる)、アカデミズムのアンチテーゼとして生まれた印象派、というのがもっと見えたらもっと面白いんだけどな、とアカデミズム派を三浦先生に教わり、こっちでパリの歴史について学んだ今だと感じるところなのだけれど。

とはいえ、学生は5.5ユーロでこの世界を体験できるというのははやり非常にありがたい。
新しくなったオルセー美術館、パリに来る際は是非とも足を運んでみてください

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